カケル「先生、分子の形って、教科書に図が載っているけど、あれってどうやって決まるんですか?なんか、全部違う形をしていて、覚えるのが大変です。特に、二酸化炭素と水って、原子の数は似ているのに、形が全然違いますよね?」
テイス「カケルさん、良いところに気がつきましたね。分子の形は、単に原子の組み合わせだけでは決まらない、非常に奥深いテーマです。確かに、教科書に載っている分子の形はバラエティに富んでいて、暗記しようとすると大変かもしれません。しかし、その根底には一定のルールが存在します。まず、カケルさんが仰った、二酸化炭素と水の違いから考えてみましょう。カケルさんは、それぞれの分子の形がなぜ異なるのか、何か仮説はありますか?」
カケル「えっと…、二酸化炭素は、炭素原子が真ん中で、酸素原子が両側に直線に並んでいるイメージです。一方、水は酸素原子に水素原子がくっついているけど、ちょっと曲がった形ですよね。うーん、原子の並び方が違うから形も違うってことですか?」
テイス「なるほど、原子の並び方の違いに着目しましたね。それは非常に重要なポイントです。しかし、並び方が違うのは、結果として形が違うだけで、形を決める根本的な原因ではありません。実は、分子の形は、原子の周りの電子の反発によって決まります。これを、VSEPR理論、または原子価殻電子対反発理論といいます。カケルさんは、電子の反発について、何か知っていますか?」
カケル「電子の反発…?あ、確か、電子はマイナスの電気を持っているから、互いに反発するってことですよね?でも、それがどうして分子の形に関係するんですか?」
テイス「その通りです、電子は互いに反発しあいます。この反発こそが、分子の形を決定づける鍵となります。少し詳しく説明しますね。原子の中心には原子核があり、その周りを電子が取り囲んでいます。そして、原子同士が結合を形成する際、電子は共有結合電子対、または孤立電子対という形で存在します。共有結合電子対は、原子と原子の間で共有される電子対、孤立電子対は、結合に関与しない電子対です。これらの電子対は、マイナスの電荷を持っているため、互いに反発し、最も離れた位置に落ち着こうとします。その結果、分子は特定の形をとるのです。」
カケル「え?電子対が反発して、形が決まるんですか?それって、なんか不思議です。二酸化炭素の場合、炭素原子の周りには、酸素原子との結合電子対が2つあります。この2つの電子対が反発して、一直線になるってことですか?」
テイス「はい、その通りです。二酸化炭素の場合、炭素原子の周りの電子対は、2つの共有結合電子対だけです。それらは、互いに最も離れるためには、180度の角度で、つまり直線状に配置されるのが最も安定な形なのです。一方、水分子の場合はどうでしょうか?酸素原子の周りには、水素原子との共有結合電子対が2つと、孤立電子対が2つあります。カケルさん、水分子の場合、電子対がどのように配置されるか、想像できますか?」
カケル「えーと、水分子の場合、共有結合電子対2つと、孤立電子対が2つ…全部で4つあるから、正四面体の頂点に配置されるとか…?」
テイス「惜しいですね、カケルさん。確かに、電子対が4つある場合は、正四面体の頂点に配置されるのが理想です。しかし、孤立電子対と共有結合電子対の間には、反発力に違いがあります。孤立電子対同士の反発が最も強く、次いで孤立電子対と共有結合電子対、最も弱いのが共有結合電子対同士です。そのため、水分子の場合、孤立電子対同士の反発が強いため、共有結合電子対を押し縮めるような力が働き、結果として、水素原子の角度は正四面体よりも小さくなり、104.5度程度の折れ曲がった形になるのです。」
カケル「えー、電子対の反発力にも違いがあるんですか!初めて知りました!それで、水分子は曲がった形になるんですね!でも、孤立電子対って、分子の形を見る時にいつも隠れてるから、意識しないと見落としてしまいそうです…」
テイス「そうですね。孤立電子対は、分子の形を決定づける上で非常に重要な役割を果たすにもかかわらず、通常、教科書には描かれていないため、見落としがちです。しかし、この孤立電子対の存在を意識することで、より深く分子の形を理解することができます。分子の形を予測する際には、まず、中心原子の周りの電子対の数を数え、それぞれの反発力を考慮することが重要です。では、カケルさんの理解度を確認するために、少し応用問題を解いてみましょうか?アンモニア分子(NH₃)の形は、どのように予測できますか?」
カケル「アンモニア分子ですか…窒素原子の周りには、水素原子との共有結合電子対が3つと、孤立電子対が1つありますね。えっと、孤立電子対の反発力が強いから、正四面体ではなくて…あ、三角錐型になるんですね!」
テイス「素晴らしいです、カケルさん!アンモニア分子の形は、まさに三角錐型です。今日の講義を通して、分子の形を決めるのは、単に原子の組み合わせではなく、電子対の反発という根本的な原理によるということを理解していただけたかと思います。最後に、今日の講義内容をカケルさん自身の言葉でまとめてみましょう。それが、今後の学習への自信につながります。」